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第284話 

若子は本当に美しい。

修の瞳は水のように柔らかく、しかしどこか悔しさの滲む微妙な色を宿していた。

彼は指先を彼女の眉の上にかざし、そっとその弧をなぞるように動かしていく。そして、指が彼女の目のあたりに至ったとき、まるで彼女に触れているかのように見えながらも、決して彼女を驚かせないように距離を保っていた。

若子はこんなにも美しく、性格も良く、何事にも真剣に取り組む。こんな彼女が、今は自由の身であり、しかも資産もある富裕層となれば、多くの男たちが彼女にアプローチしてくることは間違いないだろう。

その時、修の頭に遠藤西也のことがよぎった。

彼は遠藤西也に対して敵意を抱いているが、逆にそれはある種の認める気持ちでもあった。

西也が「自分に危機感を抱かせる存在」であるということは、

決して凡庸な男ではないという証だ。

平凡な男であれば、そんな価値もない。

もしも、西也が若子に好意を寄せ、彼女を追いかけたら......

修は先のことを想像するのが怖くなった。若子がもし西也と一緒になって、本当に幸せを掴んでしまったら、どうしよう?

彼は自分が本当に卑劣だと感じていた。西也が若子に良くすることを望めず、むしろ彼女が西也から幸福を得ることすら拒んでいる自分がいる。

西也が彼女に良くすればするほど、ますます自分が最低の男だと際立つようで、そんな自分をさらに意識せずにはいられない。

多くのことを、頭では理解している。しかし、実際に行動に移すと、それは全く別のものになる。

人の行動と心は、いつも一致しないものだ。

そのせいで、彼は何度も同じ過ちを繰り返してしまうのだ。

突然、修は視界の端で何かが光るのを捉えた。

若子のスマホの画面が明るくなっている。

誰かが彼女に電話をかけてきたのだろう。

しかし、彼女は昨晩スマホをサイレントモードにしていたはずだ。

修は視線を落として、熟睡中の若子を見つめた。

こんな早朝に、誰が彼女に電話をかけてくるのだろう?

修は若子の首の下から自分の腕を慎重に引き抜き、静かにベッドを降りた。

背中の傷はまだ痛んでおり、鈍い痛みが彼の体に響く。少しでも動くとその痛みが引き攣るように感じられるが、

修はそれを堪えながら一歩ずつスマホの方へと向かった。画面には、見知らぬ番号が表示されていた。

修はスマホを手にして部屋を出る
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